扇状地~段丘堆積物

最終更新 2024.09.22:(更新履歴)

扇状地

 山から平野あるいは盆地に移り変わる地域には、しばしば扇状地ができます。扇状地には厚い礫層が堆積し、河川は伏流することもあります。一方、扇端部では湧水が見られることもあります。栃木県に見られる代表的な扇状地は、那須野原扇状地と今市扇状地です。

 那須野原扇状地は那珂川、蛇尾川、箒川などの河川が運んだ大量の砂礫や土砂によってできた広大な扇状地です。地図で見ると、扇というよりは楕円形の葉っぱのような形をしています。それもそのはず、よく教科書に描かれる扇状地とは違い、山地から流れ出した複数の川が、やがてひとつに合流する形になっているのです。


那須野原扇状地とその周辺の3D地質図。南東寄りの上空から見下ろす鳥瞰イメージ図。画像をクリックすると説明の有無が変更可能。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク「栃木県シームレス地質図」 外部リンク および地理院地図 陰影起伏図 外部リンク を利用。3D地質図 はこちら 外部リンク

 今市扇状地は日光火山群をはじめとする急峻な山々から供給される大量の砂礫や土砂が、大谷川に運ばれてできた扇状地です。大谷川の流域は今市から上流も広い谷になっているので、地図で見ると、扇というより熊手のような形をしています。今市扇状地の場合は、山地から流れ出た川が三方に広がっていく形をなしています。


今市扇状地とその周辺の3D地質図。南東側上空からの北西方向を望む鳥瞰イメージ図。画像をクリックすると説明の有無が変更可能。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク「栃木県シームレス地質図」 外部リンク および地理院地図 陰影起伏図 外部リンク を利用。3D地質図 はこちら 外部リンク

 火山性の扇状地については、「第四紀の火山岩類の火山性の扇状地」、「那須火山群の火山活動と山体崩壊」の説明でも紹介します。

段丘とは

 段丘とは平坦面とその末端にある急崖がセットになった地形のことで、全国の河川や海岸沿いに見られます。


鹿沼市付近の立体地形図 (黒川上空の南方から鹿沼市街方面を望んだところ)。中央左を流れる黒川の右 (東側) に段丘崖があり、そこから東に鹿沼段丘が広がっています。山地や丘陵と比べると、段丘の地形面がきわめて平坦であるのがわかります。[画像クリックで拡大]
出典:国土地理院 地理院地図 Globe 外部リンク にて作成。

 栃木県の平地には、段丘が広く分布しています。段丘が今そこにあるのは、数10万年前から現在までの海水順変動や侵食量の変化、河川の流路変遷などの結果です。

段丘堆積物

 内陸県で山がちの地形である栃木県の場合、一般に段丘の地質は大きく分けて下部の「段丘礫層」と上部の「ローム層」からなります。ただし、山から離れるにつれて礫層には砂や泥が混じるようになり、より海岸に近くなると砂層や泥層に移り変わります。なお、地質図では「段丘堆積物」と言う場合はローム層を含まず、下位にある礫層や砂層などを指していますのでご注意ください。

段丘礫層

 段丘礫層は、下の写真のように大小さまざまな礫が、砂の基質で支えられています。


段丘礫層の例。宇都宮市下金井町の宝木段丘。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク絵で見る地球科学「段丘礫層」 外部リンク

 礫とは本来2 mm以上の粒子を指しますが、栃木県内の段丘礫層では、数10 cm大の礫が普通に見られるなど、礫のサイズが大きいという特徴があります。大きな礫を運ぶには、それだけ大きなエネルギーが必要です。栃木県の河川は、大きな礫を運ぶのにも十分なだけの流れの速さ、水の量を持っているということになります。

 礫のサイズや量は、場所や層準でやや異なり、相対的に礫が多いところ少ないところが見られます。一方で、新しい段丘、古い段丘を比べてみても、あまり極端な違いはありません。これは、段丘礫層の堆積した当時も現在も、山からの距離や河川の規模がそれほど大きく違っていないことを示しています。

ローム層

 ローム層は、下の写真のように赤茶けた色の土で、火山灰や風成塵 (風で飛ばされた微細な粒子) からなります。大陸由来の黄砂や、火山の噴煙に含まれる火山ガラスはロームの主要な材料です。


ローム層の例。那須烏山市曲畑の露頭。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク絵で見る地球科学「ローム」 外部リンク

 栃木県の段丘は、ローム層がとても厚いという特徴があります。その厚さは、古い段丘ほど厚く、喜連川付近では最大40 mにも達します。

 ローム層の中には、ときに遠方の火山噴火で飛来した火山灰層・軽石層が挟まっていることがあります。このような火山灰層を広域テフラと呼びます。火山噴火でできた地層なので、はなれた場所の異なる地層でも、同じ広域テフラが挟まっていれば、同じ時期に堆積していたことを示します。


広域テフラの例 (赤城鹿沼テフラ:Ag-KP)。栃木県内では「鹿沼土」としてよく採掘されています。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク絵で見る地球科学「降下軽石堆積物」 外部リンク

 上の写真は真岡市に見られる赤城鹿沼テフラ (Ag-KP) です。その名の通り、赤城山の噴火で飛ばされてきた軽石が降り積もったものです。写真でわかるように、軽石には極端に大きなものも、逆に微細なものもなく、ある程度サイズのそろった粒子ばかりからできています。これは、噴火で飛ばされた粒子が地上に落ちてくるときに、大きく重いものは火山の近くに降り積もる一方、小さくて軽いものはより遠くへ運ばれるため、粒子サイズが選り分けられることによる結果で、降り積もってできる地層 (降下堆積物) の特徴です。

厚い段丘堆積物

 栃木県内の場合、段丘堆積物はとても厚いという特徴があります。

 通常、段丘礫層は河川に削られた後、低いところを埋めるだけに留まることが普通です。しかし、栃木県内の段丘礫層は、ひとたび削られても、次の堆積時期に再びその谷を埋め尽くすほど礫が堆積します。時には以前の水準よりも礫が堆積することもあります。これは、それだけ礫の供給量が多いことを表しています。


宇都宮付近の段丘堆積物の東西断面図。侵食の時期に一度削られた凹地を、より厚い礫層が埋めているのが分かります。ローム層の中の赤い線は広域テフラ。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター1/5万地質図幅「宇都宮」(吉川ほか, 2010) 外部リンクを利用し、本ページ用に説明を加筆。

 礫が供給されることは山が削られていることを意味します。礫の供給量が変わらないと言うことは、削られる一方で山も成長していたことを意味しています。実際に栃木県内の火山は約50万年前以降、現在まで活動を続けてきていますし、関谷断層の活動に見られるように山が隆起する地殻変動も続いています (関谷断層についてはこちらを参照)。山の成長と侵食のバランスで、平野の地形・地質ができているわけですね。

 また、上に述べたように栃木県内では、ローム層がとても厚いという特徴があります。ローム層は段丘だけでなく比較的傾斜の緩い丘陵も厚く覆っています。ローム層を構成するのは主に風成層と火山灰なので、栃木県の西側に多くの火山があることが一因となっていると考えられます。

地盤としての段丘礫層・ローム層

 段丘堆積物を構成する段丘礫層・ローム層は、いずれも地盤としては比較的安定しているといえます。

 しかし、2011年3月の東日本大震災のときには、比較的安定していると思われてきたローム層が、栃木県や福島県で大規模に崩れる斜面災害が発生しました。通常とは違う強い揺れ、あるいは長時間の揺れには、必ずしも強靱ではないことが示唆されます。

段丘の形成年代

 段丘の形成は古気候と大きく関係しています。温暖な時期には海水準が上昇するため、内陸まで海が進入してきます。海に覆われた地域には堆積物がたまりますので、海水準上昇の影響を受けて、栃木県南部の地下には海成層が何層か挟まっていることが知られています。一方、寒冷な時期には大雨が少なく、土砂があまり流されないために栃木県のような内陸部では扇状地が発達する傾向があります (このとき茨城県や東京湾周辺のような下流部では海岸線が後退することにより侵食が進みます)。詳しくは「河岸段丘のでき方」「堆積作用」のページを参照してください。例えば、宇都宮付近の段丘堆積物の形成時期は、いずれも以下のように寒冷な時期に対応することが指摘されています(鈴木, 2000、山元, 2006)。

  • 上欠段丘の段丘礫層:MIS 10 (約36万年前頃)
  • 宝積寺段丘の段丘礫層:MIS 8 (約27万年前頃) ※
  • 鹿沼段丘の段丘礫層:MIS 6 (約15万年前頃)
  • 宝木段丘の段丘礫層:MIS 4 (約6万年前頃)
  • 峰町段丘の段丘礫層:MIS 3 (約4~3.5万年前頃)
  • 田原段丘の段丘礫層:MIS 2 (約2万年前頃)
  • 蒲須坂段丘の段丘礫層:MIS 2のやや後 (約1.3万年前頃)
※ 塩谷・鈴木 (2016) はMIS 7の間氷期に離水した (河川による堆積が止んだ) と考察しています。
 MISは通常より温暖または寒冷な時期を示す指標で、偶数が寒冷な時期に相当します。詳しくはこちらの「氷期と間氷期」のページを参照してください。

 裏を返せばこのことは、温暖な時期に当たる現在の場合、鬼怒川をはじめとする栃木県内の河川では礫や砂の堆積は進まず、下流域まで多くの土砂を運んでいる、すなわち水量の豊富な状態にあるとも言えます。ただし、人工のダムをはじめとする治水も進んでいますので、その状態も変わっている可能性はあります。

参考文献


更新履歴:
 2024.09.22:「河岸段丘のでき方」へのリンクを追加するとともに、誤字を修正。