那須火山群の地質

2020.7.20 公開
2020.9.13 3D地質図リンクURL修正
2020.10.21 参考文献リンク追加

那須火山群の概要

 このページでは那須火山群の地形と地質の特徴をご紹介します。

那珂川町の那珂川河床から望む那須火山群。1996年4月撮影。

 那須火山群は、栃木県から福島県に賭けて標高2000 m弱の山々がほぼ南北に並んだ山岳地帯を形成しています。栃木県内では、北から三本槍岳、朝日岳、茶臼岳、南月山、黒尾谷岳と連なっています。以下では、主に山元・伴 (1997) の那須火山地質図に基づいて那須火山群の成り立ちを説明いたします。

 なお、茶臼岳は那須岳とも呼ばれ、地形図にも二つの地名が併記されています。ただし、那須岳をより広い意味で使う場合もあるため (深田久弥著「日本百名山」にも「茶臼、朝日、三本槍を、所謂那須岳と見なしていいだろう。」との記述があります)、本ページでは火山として識別されている「茶臼岳火山」との整合を考慮して、通常は「茶臼岳」の地名を用いることにします。

那須火山群とその周辺の3D地質図。南側上空からの鳥瞰イメージ図。
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク「那須火山地質図」 外部リンク および地理院地図 陰影起伏図 外部リンク を利用。3D地質図 はこちら 外部リンク

 那須火山群の活動は、約50万年前の甲子旭岳火山の形成から始まります。甲子旭岳火山の山体は福島県側に位置しているため、その火山噴出物は栃木県内にはほとんど見られず、大峠付近に分布するのみです。

 続いて、約30万年前に三本槍岳火山が活動を開始します。三本槍岳火山の噴出物は、三本槍岳から三斗小屋温泉周辺に分布しています。

清水平南方から望む三本槍岳 (南東側斜面)。登山道のある東側はなだらかな斜面ですが、南西側は大きくえぐれて、険しい地形になっています。右奥に見えるピークは旭岳、二岐山。1996年10月撮影。

 その後、約20~10万年に朝日岳火山と南月山火山が活動しています。朝日岳火山の噴出物は、朝日岳はもとよりその東方に広がり、マウントジーンズスキー場の斜面やその東方まで続いています。また、茶臼岳の西側にも分布しており、茶臼岳火山や南月山火山の噴出物に覆われています。南月山火山は那須火山群の南端に位置し、いくつもの厚い溶岩流を湧出させています。黒尾谷岳をつくる溶岩も、南月山火山の一連の噴出物に分類されています。

峰の茶屋付近から望む朝日岳 (右奥のピーク)。左手前側のピークは剣が峰。いずれも朝日岳火山の噴出物からできています。山体の浸食が進み、険しい地形を成しています。1996年10月撮影。

那須塩原市の宇都野橋 (箒川) 付近から望む南月山 (中央)。ちょうど背後に茶臼岳とその噴気がが重なっており、ピークの輪郭が不明瞭になっています。左側のピークは白笹山、中央手前側に位置するやや低いピークは黒尾谷岳。1998年3月撮影。

 那須火山群の中では最後に、茶臼岳の活動が起こります。およそ1万6千年前頃から噴火が始まり、断続的に現在まで活動が継続しています。このため、茶臼岳は活火山に相当します。茶臼岳の火山活動については、後述します

 このように、那須火山群は活動中心が異なる複数の火山が、比較的狭い範囲に集合した形になっています。したがって、古い火山では浸食が進み火山体の内部構造が露出している一方、新しい火山では噴出物が新鮮な状態で残っていたり、熱いマグマの存在による噴気活動が見られたりします。

 また、様々な時期に噴出した溶岩が見られますが、その組成も玄武岩、安山岩、デイサイトと多様です。玄武岩の溶岩はなだらかな山容をつくり、安山岩~デイサイトの溶岩ではドーム状の山体を形成しています。

熊見曽根付近から南方に向かって望む剣が峰 (中央手前)、茶臼岳 (中央左奥)、日の出平 (中央奥)。年代の古い順に、剣が峰は朝日岳火山噴出物、日の出平は南月山火山の噴出物、茶臼岳は茶臼岳火山噴出物からできており、火山地形の保存状態がそれぞれ異なるのが分かります。また、玄武岩溶岩の日の出平はなだらかなスロープであるのに対し、安山岩溶岩の茶臼岳はより傾斜のきついドーム状の山体を成しています。1996年10月撮影。3D地質図 はこちら 外部リンク

那須火山群の火山活動と山体崩壊

 那須火山群の特徴として、南東麓に広がる広大な火山性扇状地の存在が挙げられます。地質図を見ると、扇状地の多くは岩屑なだれ堆積物が占めており、しかも年代の異なるいくつもの堆積物が認められます。つまり、那須火山群は山体を成長させる一方、たびたび大規模な山体崩壊を起こし、裾野に大量の岩屑を供給してきたわけです。

 那須火山群の岩屑なだれ堆積物は、大きく4つに区分されます (山元, 2006; 菊地・長谷川, 2020)。

地層名 発生年代 発生源
御富士山岩屑なだれ堆積物 3~4万年前頃 朝日岳火山の南東斜面
那珂川岩屑なだれ堆積物 14~17万年前頃 白笹山-南月山-高雄山の南斜面
黒磯岩屑なだれ堆積物 およそ26万年前頃 三本槍岳火山の山体
余笹川岩屑なだれ堆積物 およそ33万年前より古い 三本槍岳火山の山体?

那須火山群にみられる岩屑なだれ堆積物と山体崩壊。古い堆積物は必ずしも給源の崩壊地形が明確ではありませんが、いずれも那須火山群の火山の大規模な山体崩壊の産物です。
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク「栃木県シームレス地質図」 外部リンク および地理院地図 陰影起伏図 外部リンク を利用。 御富士山付近の3D地質図 はこちら 外部リンク

 これら4つの岩屑なだれ堆積物は、それぞれに特徴があります。最も新しい御富士山岩屑なだれ堆積物は原地形がまだよく残されており、御富士山やりんどう湖周辺には流れ山などの特徴的な微地形を見ることができます。那珂川岩屑なだれ堆積物は後の地層や溶岩に覆われていますが、起源となった大規模な崩壊地形がはっきりと残っています。黒磯岩屑なだれ堆積物は那須火山群から数10 kmも離れた地域に広大な分布を見せています。余笹川岩屑なだれ堆積物は山体の近くでは後の堆積物などに覆われていて地表には見られませんが、一方で4つの岩屑なだれの中では最も遠方まで到達していることが分かっています。また、余笹川岩屑なだれ堆積物の一部は大量の水と入り交じって泥流となり、はるか遠方の茨城県瓜連丘陵まで流れ下ったと考えられています (菊地・長谷川, 2020)。

茶臼岳の火山活動と地質

 那須火山群の中で最も新しく、現在唯一噴気活動が見られるのが茶臼岳 (那須岳) です。茶臼岳はロープウェイが通じ、気軽に登ることのできる山ですが、山頂周辺にはほとんど植生がありません。このため、溶岩や噴石など火山の生々しい地質が各所で観察できます。斜面の一部には構造土と思われる表土地形も観察できます。

南西側から望む茶臼岳。西側斜面から立ちのぼる噴気が山頂方向に流れているのが分かります。1999年8月撮影。3D地質図 はこちら 外部リンク

 茶臼岳火山の活動は、休止期を挟んで大きく4回 (山元・伴, 1997) ないし6回 (高橋ほか, 2016) に区分されています。これらは火砕流堆積物、溶岩流、降下堆積物からなり、主に山体の東側に広く分布しています。溶岩流は明瞭な末端崖を示すことが多く、那須ロープウェイを山頂駅に向かって上がっていくときに、正面にそそり立つ断崖もそのひとつです。

 最も新しい溶岩は、山頂の溶岩ドームを構成する安山岩のブロック溶岩です。1410年の噴火により湧出したと考えられおり、この噴火により180人あまりの犠牲者が出たことが記録に残されています。

南東側の登山道から望む茶臼岳山頂。中央の白い層は1408年の噴火 (水蒸気爆発) で降り積もった噴出物で、その上を頂上まで覆っているのが1410年の噴火で流出した安山岩溶岩。2015年5月撮影。

 茶臼岳山頂には火口があり、登山道が一周しています。噴火からは600年以上も経っており、この間厳しい風雨にさらされているのですが、山頂溶岩の大型の岩塊にはいまだに鋭いエッジや割れ目がはっきり残っています。

茶臼岳山頂に見られる安山岩ブロック溶岩の産状。大型の岩塊 (ブロック) が密集しています。2015年5月撮影。

 茶臼岳の山頂西側の噴気地帯は「無間火口」と呼ばれ、記録に残る20世紀の茶臼岳の小規模噴火では、いずれもここが噴出源となっています。

茶臼岳無間火口の噴気。登山道のすぐ近くにも噴気孔が見られ、風切り音を立てているものもあります。2015年5月撮影。

3D地質図で見る那須火山群

 3D地質図で、那須火山群の地形と地質の特徴をご覧ください。

 3D地質図の使い方は、「3D地質図の使い方」を参照して下さい。

参考文献

CC-BY