塩原カルデラ

塩原カルデラ

 カルデラとは、急な崖で囲まれている円形・多角形の凹地のことです。火山の巨大噴火によってカルデラができることが知られています (カルデラ噴火については別ページを参照)。栃木県北部に位置する塩原盆地は、かつては構造盆地と考えられていましたが、近年ではこのような火山噴火でできたカルデラと考えられています。ただし、現在の三日月型の塩原盆地はカルデラの一部 (ほぼ北半分) で、南側は高原火山の溶岩によって埋められているために凹地地形は残っていません。

塩原カルデラの3D地質図。塩原カルデラは直径6 kmに及ぶ円形の陥没地形で、塩原温泉郷の位置する盆地がカルデラの底に相当します。カルデラの南半分は、高原火山の新しい溶岩に埋められていて、その輪郭ははっきりしません。カルデラ内には、湖成層と段丘堆積物が分布しています。
産総研地質調査総合センター 外部リンク「栃木県シームレス地質図」 外部リンク、地理院地図 陰影起伏図 外部リンク を基にQGISのプラグイン「QGIS2threejs」を利用して製作。

 塩原カルデラは、大田原火砕流の給源であると言われています (尾上, 1989)。2000年代以降の研究によって、大田原火砕流は噴出時代のやや異なる3層の火砕流堆積物からなっていることが分かってきました。山田ほか (2018) は、他のテフラ (特に大町APmテフラ群) との層位関係とその年代から、これらの火砕流の噴出年代は30万~41万年前の期間であったと考えています (大田原火砕流についてはこちらの別ページを参照)。すなわち、塩原カルデラはその頃に地下にあった大量のマグマが巨大噴火によって失われたため、地表が大規模に陥没して形成され、その後今日まで堆積物や溶岩で埋められてきたことになります。

 栃木県北部には、新第三紀末から第四紀にかけて形成されたコールドロン (浸食されたカルデラ) が多数存在しています (詳しくはこちらのページをご覧ください)。塩原カルデラの場合、その規模はどのくらいでしょうか。現在の凹地地形は直径6 kmほどありますが、カルデラ壁は長い年月の浸食により後退することが知られていますので、最初の陥没地形はもう少し小規模であったと思われます。

 また、南側のカルデラ縁は現在の地表では確認できませんが、その付近に相当する場所には、約6500年前に噴出した富士山の溶岩ドームと正断層群があります (「栃木県の地すべり」を参照)。地下からマグマが上昇する際には、既存の断裂を使うことが考えられますので、この付近に塩原カルデラのカルデラ断層が伏在している可能性はありそうです。

 これらのことから、陥没したエリアの直径は6 kmは超えないものの、5 km程度あった可能性は十分考えられます。

 塩原盆地には多数の温泉があり、ボーリングによって地下の地質も明らかにされています。それによると、現在の塩原盆地の中心部付近では、地下420 mにわたってカルデラを埋めた堆積物が続いていることが分かっています (鈴木ほか, 1978)。また、塩原カルデラの外輪山をなす山々は、盆地からの比高が500 m以上にも及んでいます。カルデラ形成前の地形がどんな様子だったかは分かりませんが、最も陥没した箇所では800 m程度の落差があっても良いことになります。

塩原カルデラの東西断面に見る地下構造のイメージ図。盆地を流れる箒川に沿って多くの温泉ボーリングがあり、それらのデータをコンパイルした鈴木ほか (1978) の推定を基に図化しています。
地表部分の図は、産総研地質調査総合センター 外部リンク「栃木県シームレス地質図」 外部リンク、地理院地図 陰影起伏図 外部リンク を基にQGISのプラグイン「QGIS2threejs」を利用して製作。

 ただ、塩原カルデラからは、カルデラを埋めた凝灰岩に関する報告がありません。カルデラ噴火の際には、巨大噴火に伴う大量の火砕岩がカルデラに堆積すると考えられており、塩原カルデラよりも古い時代に形成された栃木県北部のコールドロン群では、いずれも厚い溶結凝灰岩が残っています。塩原カルデラの謎は、まだ完全には解明されていないようです。

湖成層

 塩原カルデラの南半分は、高原火山の山体に覆われていますが、北半分は塩原温泉の位置する盆地に相当し、湖成層が分布しています。上記のカルデラ断面イメージにも示されていますが、湖成層はカルデラの縁辺部付近では礫岩や砂岩が多いものの、中心部では珪藻質の泥岩が主体となっています。この泥岩は、温泉の湧出する場所ではその熱の影響で続成が進み、より固くなっています (Tuzino et al., 2009)。

塩原湖成層堆積物の珪藻質泥岩に見られる成層構造。細かい平行葉理が特徴で、これを見る限りとても静穏な環境で堆積したことがうかがえます。那須塩原市要害公園にて2013年10月撮影。

塩原湖成層堆積物の珪藻質泥岩に見られるコンボルート葉理構造。噴火、地震あるいは洪水など、何らかのイベントによって堆積直後に地層が乱されたことがわかります。那須塩原市要害公園にて2013年10月撮影。

 現在、塩原盆地の河川は最終的には箒川へ合流して、全体として西から東へと流下しています。また、盆地の北側や西側では、外輪山を切って盆地へ流れ込む河川の流域面積も、盆地東側に比べるとかなり広くなっています。このため、カルデラの中に供給される河川の砂礫は、西側の方が量が多くなります。この傾向はカルデラのできた頃から同じだったようで、湖成堆積物も西側ほど礫層が厚く、また広く分布しています (Tsujino and Maeda, 1999)。

塩原カルデラとその周辺の地形及び河川。カルデラの外から流れ込む河川が箒川に合流し、東へと流れ下る様子が見て取れます。
川だけ地形地図 外部リンク を利用して製作。

植物化石

 塩原カルデラを埋めている湖成層のうち、カルデラ中心部に厚く見られる泥岩層からは、保存の良い植物化石が豊富に産出することが知られています。中塩原にある「木の葉化石園」では、成層した地層の露頭とそこから産出した化石を見ることができます。

塩原湖成層堆積物の珪藻質泥岩から産する植物化石の例。「木の葉化石園」で1980年代に購入した標本の写真。

塩原湖成層堆積物の珪藻質泥岩から産する植物化石の例。「木の葉化石園」で1980年代に購入した標本の写真。

 「木の葉化石園」の植物化石は、その数や種類が多いのに加え、化石の保存がとても良いのが特徴です。これは、塩原盆地の中でも化石園の位置する場所の泥岩が特に続成が進んでおり、葉脈などの微細な組織も保存したためと考えられています (Tuzino et al., 2009)。また、植物のほかにも昆虫や小動物の化石なども見つかっています。このため、現在に至るまでこの石や地層の研究や教育が盛んに行われています。詳しくは、以下のウェブサイトをご覧ください。

参考文献

CC-BY