最終更新 2024.09.22
人の生活する場の多くは平坦地です。山がちな土地であっても、地すべりなどでできた平坦地を選んで住んでいることがよくあります。平らな地形はどのようにできるのか見てみましょう。
なお、広い平らな土地 (平地) のうち、山地に囲まれている場所は盆地と呼びます。面積が広く、海まで続いているような場合は平野といいます。また、周りの土地よりも一段高くなっている平地は台地と呼びます。
川の流れは土砂を運ぶ力があります。山地のように急な流れの場所では特にそうですが、やがて川が山地を抜けて開けた土地に出てくると、川の流れは緩やかになります。地表に傾斜があれば川は流れ続けますが、傾斜が緩やかになると土砂の堆積も始まります。こうして平らな土地が作られ始めます。
大きな河川や険しい山を流れる河川は水の勢いが強いために、たくさんの土砂や粗い礫も運びます。このような河川が谷に出るところには、しばしば扇状地が形成されます。
長野県白馬村を流れる松川の河床の様子。山地から出た河川は礫や砂を堆積させ、扇状地を形成します。出典:産総研地質調査総合センター 、絵で見る地球科学「網状河川」 [画像クリックで拡大]
傾斜の変化が緩やかであったり水の量がそれほど多くない場合には明瞭な扇状地をなさず、谷底の平地が傾斜を変えつつ連続的に続いていきます。川は流れ下る間に別の川との合流をくり返しますので、下流になるほど堆積物も増えて谷の幅か広くなっていくのが普通です。こうして、川の下流域ほど平らな土地が広がるようになります。
丹波市山南町付近の篠山川に見られる河谷の規模の変化。支流を集めるたびに、谷の幅が広くなっていく様子がわかります。地理院地図 自分でつくる色別標高図 で作成。[画像クリックで拡大]
もうひとつ、川が平らな土地をつくる作用があります。それは侵食です。傾斜が緩くなり流れが遅くなると、河川は蛇行するようにもなります。蛇行河川ではカーブの外側に水が偏るため、外側の壁を削ります。これを側刻といいます。
川の蛇行と側刻のイメージ。川の流れが緩くなると堆積が始まり、川が蛇行するようになります。そのため側刻により次第に河谷の崖を侵食し、谷を広げていきます。[画像クリックで拡大]
蛇行河川は土砂を堆積させるとともに側刻により谷を広げますので、そこには広い平らな土地ができます。こうして時間をかけて平野が作られていきます。また、河川の作り上げた平野には以前の流路跡が残っていることがあり、下の図にも見られるように新しい平野ほど過去に川が削った地形 (蛇行の跡や旧河道など) が明瞭に識別できます。
秋田県大仙市付近における雄物川のつくる平野の様子。この図では今は平野の隅を流れる雄物川ですが、平坦地形を見ると以前は細矢印で示すようにもっと右上側を流れていたと考えられます。雄物川が左下に移動してきた結果、左上にある栩平川 (とちひらがわ:ピンク矢印) は、緩くカーブして北へ流れていた (点線矢印) ところ、雄物川の側刻によってこの場で合流するようになったようです (河川争奪)。地理院地図 自分でつくる色別標高図 で作成。[画像クリックで拡大]
平らな地形をつくりだすものとしては、海も大きな役目を果たしています。海の波は岩や土地を削る力があります。このため、岩石海岸では繰り返し波が当たることにより岩盤が削られ、海食崖がつくられます。さらに、崖は波の侵食により後退を続け、あとには波食棚と呼ばれる平坦な地形が残るのです。
岩石海岸に見られる海食崖と波食棚。いずれも繰り返す波の力で侵食されてできた地形です。[画像クリックで拡大]
地震によって土地が数 m隆起することがあるのは知られており、これが何度も繰り返されることで海面よりも高くなった波食棚は、海岸沿いの平地となります。
房総半島南端の野島崎付近の地形の様子。海岸沿いの平地は、隆起した波食棚に相当し、その幅は500~800 mほどあります。平地と山の境界は明瞭な急斜面で、かつとの海食崖に相当すると考えられます。地理院地図 全国最新写真 (シームレス) 。[画像クリックで拡大]
海食崖が波に削られてできたた砂や、川によって陸から運ばれてきた砂・泥は、海岸から沖合に堆積します。浅い海では波や潮流で水の動きが活発なので泥は流されやすいため、主に砂が多く堆積します。深い海や穏やかな内湾などには、主に泥が厚く積もっています。
温暖化により海水準の上昇が始まると、海岸近くの谷は少しずつ海に沈むことになります。このように海の侵入してきた谷を「おぼれ谷」といいます。初めのうちは陸のすぐ近くの海岸部ですので、谷の底にはまず砂が堆積します。海水準の上昇が続き、海が深くなっていくと次第に泥も堆積するようになります。堆積物はやがては谷地形を埋め立ててしまい、地形の凹凸がなくなって平坦な海底面ができあがります。
海岸における堆積のイメージ。波や潮流によって運ばれた砂や泥が、海底の低いところから堆積していくので、時間とともに地形を平らにならします。[画像クリックで拡大]
このように海面下でつくられた地形が、今度は海水準の低下や地盤の隆起などによって陸化すると、広い平地になります。約6000年前の海水準は現在よりも2 m程度高かったと言われており、日本の沿岸部の多くは海に沈んでいました。例えば東京湾では、過去2万年の間に深い谷地形が埋め立てられて現在のような平地になったことが、ボーリングなどによる地下の地質調査から明らかになっています。詳しくは、日本の地質の沖積層のページをご覧ください。
東京近郊の平野の地下に隠れている谷地形。等高線の数字は東京湾平均海水面との比較 (単位 m)。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター特殊地質図 No.40「 関東平野中央部の地下地質情報とその応用」、荒川低地・中川低地・東京低地北部における沖積層の基盤地形 (小松原純子) から抜粋
何かの拍子に川や谷がせき止められてしまうことがあります。例えば火山活動にともなう溶岩流や火砕流であったり、地震や大雨による山崩れ、地すべりなどによるものです。これらも平らな土地をつくります。
大規模な土石流や火砕流では、発生したときに運ばれてきた堆積物だけで谷が埋め尽くされることもあります。
火砕流 (左) や山崩れ (右) によって谷が埋め尽くされてしまうイメージ。谷がたちまち平らな土地に変わってしまいます。[画像クリックで拡大]
一方、溶岩や地すべりが谷をふさぎ、川の流れをさえぎると天然のダムになります。そこにははじめ、せき止められた川の水がたまり続けて湖ができます。そして、湖は時間とともに土砂に埋め立てられていき、最後には平坦な土地になります。
川や入り江の出口をふさがれてできた湖をせき止め湖といいます。川が土砂を運び続けると、湖は次第に浅くなり、いつしかすっかり埋め立てられて平らな土地に変わります。[画像クリックで拡大]
ただし、急速に堆積した土砂は必ずしも安定ではなく、崩れたり削られやすかったりして失われることもあります。実際に、歴史の中では天然ダムの決壊による下流域の洪水災害も発生しています。