最終更新 2019.02.11
栃木県内で最も古い地質は石炭紀の堆積岩です。しかし、それはジュラ紀の地層の中に巨大なブロックとして含まれるものと考えられており、全体としてはジュラ紀に形成された地質体と見なされています。このような構造をしている地層を付加体といいます。付加体は海洋プレートが沈み込むときに、海溝の陸側で形成されると考えられています。付加体の成り立ちや構成岩石について、詳しくはこちらのページ (「付加体」) をご覧ください。
また、付加体の地層には中生代と古生代の地層が混在しているので、「中・古生界」と呼ばれることもあります。
栃木県では付加体の岩石は主に足尾山地と八溝山地に見られます。砂岩や泥岩、およびそれらの互層が変形を受け、混じり合って産します (「メランジュ」と呼びます)。益子町根本山周辺には淘汰のよい塊状の砂岩が分布しており、これは前弧堆積盆のような陸に近い穏やかな環境でできた堆積物かも知れません。益子町七井大平に分布する頁岩からは、アンモナイトの化石が見つかっています (鈴木・佐藤, 1972)。
成層した頁岩 (砂岩を挟有)。益子町高館山の林道にて2017年9月撮影。[画像クリックで拡大]
付加体にはブロックまたは異地性岩体と呼ばれる地層が含まれます。栃木県内で主に見られるものはチャートと石灰岩です。この他にも「緑色岩」と呼ばれる海洋底玄武岩のブロックも見られることがあります。これらの中にはジュラ紀よりも古い時代にできたものもあり、遠く離れた海の上でできた地層や岩体が、プレートの移動とともにジュラ紀になって当時の日本の位置にまで到着したことになります。足尾山地と八溝山地では地層や岩体の構成にやや違いがあり、足尾山地のほうがチャートや石灰岩が多く分布しています。また、佐野市葛生地域では、石灰岩の分布をたどることにより、地層が緩やかな向斜構造 (正確にはシンフォームといいます) をなしているのが認められます。
栃木県内のジュラ紀の付加体の分布。チャート、石灰岩が足尾山地に多く、八溝山地に少ないことが分かります。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 「栃木県シームレス地質図」 および 地理院地図 白地図 を基にQGISで製作。より詳しくご覧になる場合は「栃木県の地質図」をご利用ください。
チャートは大変硬い岩石で、浸食にも強いため、しばしば急峻な峰を作ります。宇都宮市西部にそびえる古賀志山もそのひとつで、特に南側斜面には切り立った崖があり、パラグライダーやロッククライミングのフィールドにもなっています。また、佐野市にある唐沢山城址は、固いチャートがつくる険しい地形が天然の要害となっていることを利用して築かれています。
チャートの産状の例。佐野市唐沢山城址の駐車場脇に露出する層状チャート。2016年8月撮影。[画像クリックで拡大]
チャートは化学組成からみても特徴的な岩石で、90%以上がシリカ (SiO2) からできています。このため、「珪石」と呼ばれるガラスや磁器の原料として採掘されることもあります。
日光市猪倉南方の層状チャートの例。やや熱変成を受けていますが、ガラス質の岩石であることが分かります。[画像クリックで拡大]
出典:野外地質学~Field Geology~のページ 、宇都宮地域の地質
石灰岩はセメントをはじめ、さまざまな原料になるため、古くから鉱山として開発されてきました。佐野市葛生地域にはそのような石灰石鉱山が多数存在しており、全国有数の生産量を誇っています。また、石灰石は炭酸カルシウム (CaCO3) を主体とする化学組成を持っていますが、マグネシウムを含むとドロマイト (苦灰岩) と呼ばれる鉱石になります。佐野市葛生地域周辺では、石灰石・ドロマイトのどちらも盛んに採掘されてきました。
栃木市の出流町にある出流山満願寺の奥ノ院は、石灰岩の断崖に建造されています。2019年2月撮影。[画像クリックで拡大]
石灰岩は長い年月のうちに水に溶けて独特の地形を作り出します。栃木県の石灰岩分布地域にも、所々に鍾乳洞が残されています。栃木市の出流町にある出流山満願寺の奥ノ院では、鍾乳石が十一面観世音の後ろ姿として信仰されています。
佐野市の宇津野洞窟は、栃木県内では珍しく、内部を見学することができる鍾乳洞です。2016年8月撮影[画像クリックで拡大]
鍾乳洞に産する石筍の例。佐野市の葛生化石館の庭に展示されている高さ1.5 mの石筍。2016年8月撮影。[画像クリックで拡大]
佐野市出流原弁天池は、環境省の名水百選に指定されている湧水です。弁天池の背後にある磯山は石灰岩からできており、弁天池の水は石灰岩の割れ目から湧き出しています (島野, 1989)。
佐野市の出流原弁天池は、石灰岩の割れ目からの湧水を水源としており、とても澄んだ水を湛えています。2019年1月撮影。[画像クリックで拡大]
石灰岩に関わる珍しい地質の例では、石灰岩にできた洞窟に後の時代の地層が堆積し、そこから動物の化石が産出しています。これらは佐野市葛生化石館の展示で見ることができます。
付加体の岩石は一般に変形を受けているため、大型動物の化石を産出することはあまりありません。しかし、益子町や佐野市ではアンモナイトの化石が発見されています (鈴木・佐藤, 1972)。また、石灰岩は多くの化石を産出します。
石灰岩に含まれるフズリナ (紡錘虫) の化石。紡錘と言っても分からないかも知れませんが、要はラグビーボールのような形です。佐野市の葛生化石館でもらったお土産の石を水で濡らして撮影。フズリナの大きさは約5 mm。[画像クリックで拡大]
付加体に伴って、マンガンの鉱床が存在していることがあります。実は、栃木県内の足尾山地一帯は、かつて有数のマンガンの産地でした。詳しくは「栃木県の資源」のページをご覧ください。