メタンハイドレート

最終更新 2023.04.20

メタンハイドレートとは


メタンハイドレートの見た目は氷のようですが、常温では気化したメタンに着火するので「燃える氷」とも呼ばれます。[画像クリックで拡大]
出典:経済産業省のウェブページ、【60秒解説】 日本周辺に眠る「燃える氷」 外部リンク より。

 メタンハイドレートはメタンを含むハイドレートです。メタンは最もシンプルな炭化水素で、可燃性ガス (身近なところでは「都市ガス」) としてよく知られています。ハイドレートとは、水の分子が集合して「かご」のような構造をつくったもので、他の分子がそこに入り込んでいます (クラスレートとも呼ばれます)。すなわち、メタンハイドレートとは水分子のかご構造の中に、メタンがバランス良く取り込まれているものです。


メタンハイドレートの構造。球の種類は、ピンク色がメタン、青色が水をそれぞれ表しています。茶色の棒は実際に存在するわけではなく、水の分子が互いに引き合っていることを示します (水素結合)。[画像クリックで拡大]

メタンハイドレートの安定状態

 メタンハイドレートは低温・高圧という環境で安定するという特徴があります。常温・常圧ではメタンは水にほとんど溶けませんが、メタンハイドレートになると水に溶ける量の約1万倍ものメタンが安定に固体化するといわれています。したがって、メタンの貯蔵庫として注目されています。


温度・圧力の図で見るメタンハイドレートの安定領域。[画像クリックで拡大]
アメリカ合衆国エネルギー省のウェブページ、Methane Hydrate Production Feasibility 外部リンク およびメタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムのウェブページ、「メタンハイドレートの基礎情報」 外部リンク を参考に制作。

 メタンハイドレートの安定して存在できる低温・高圧な環境は、地球上にはあまりありません。永久凍土の発達する地域の地中と、深海底の堆積物の中が知られている程度です。


永久凍土の発達する地域におけるメタンハイドレートの存在領域。永久凍土およびその下の地層の地温勾配のグラフが、メタンハイドレートの安定領域と交差する範囲が、メタンハイドレートの存在する領域になります。[画像クリックで拡大]
アメリカ合衆国エネルギー省のウェブページ、Methane Hydrate Production Feasibility 外部リンク およびメタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムのウェブページ、「メタンハイドレートの基礎情報」 外部リンク を参考に制作。


海底におけるメタンハイドレートの存在領域。海底堆積物の地温勾配のグラフが、メタンハイドレートの安定領域と交差する範囲が、メタンハイドレートの存在する領域になります。海水の温度曲線もメタンハイドレートの安定領域と交差するのですが、メタンハイドレートが水に溶けるため、海水中では存在できません。[画像クリックで拡大]
アメリカ合衆国エネルギー省のウェブページ、Methane Hydrate Production Feasibility 外部リンク およびメタンハイドレート資源開発研究コンソーシアムのウェブページ、「メタンハイドレートの基礎情報」 外部リンク を参考に制作。

 メタンハイドレートは温度の上昇または減圧によって不安定になり、水とメタンに分解してしまいます。海底下のメタンハイドレートが分解すると、水はともかく、メタンはガス (泡) となって海水中を上昇し、大気中へと拡散します。

資源としてのメタンハイドレート

 資源として注目されているメタンハイドレートは、日本のような島国の場合は特に、海底に存在するメタンハイドレートです。深い海で、更に海底の地下を直接調べるのはたいへん困難ですが、実は船からの音波探査で可能性の高い地域を絞り込むことが可能です。音波探査では、通常は堆積物の物性の違いから地層の境界面を検出します。一方、メタンハイドレートも安定領域では固体、それ以外ではメタンはガスになるため、物性が異なります。これが音波探査では地層の境界とは別の「ニセの境界」として現れるのです (海底面とほぼ平行なのでbottom simulating reflector: BSRと呼ばれます)。


海底におけるメタンハイドレートの産状。海丘のような、海底としては浅い場所にも割れ目に沿ってしみ出したメタンハイドレートの塊が産出しますが、より大量に貯蔵されていると考えられているのは、深海底の砂層の中 (砂粒の隙間) です。[画像クリックで拡大]

 日本近海でもBSRの見られる海域から、メタンハイドレートが実際に見つかっています。現在、採掘に向けた研究と試験が続けられており、実際にメタンハイドレートからメタンガスを回収する海洋産出試験、メタンハイドレートの回収・生産の技術開発、環境への影響調査などが進展中です。(2023年4月現在)。

メタンハイドレートと温暖化

 メタンには二酸化炭素の25倍もの温室効果があるといわれています。このため、メタンハイドレートが大規模に溶け出すと、気候の温暖化をまねくことになります。ただし、二酸化炭素に比べると大気中ではメタンは不安定で、10数年で分解して二酸化炭素に変わります。

 メタンハイドレートは温度の上昇、圧力の減少によって不安定になります。例えば、気温 (水温) が上がったり、逆に寒冷化で海水準が低下して水圧が下がったり、地震で地割れができたりすることで、メタンハイドレートから溶け出すメタンが発生することになります。

地球上でメタンハイドレートの存在する場所とメタンの移動・貯蔵を示した図。[画像クリックで拡大]
出典:Ruppel and Kessler (2017). USGS - Gas Hydrate Breakdown Unlikely to Cause Massive Greenhouse Gas Release 外部リンク, Public Domain

 現在の環境問題として取り上げられる地球温暖化に、メタンハイドレートの融解がどれほど関係しているかは、明確にはわかっていません。メタンが放出されても、微生物によって二酸化炭素に分解されるため、世界規模の見積もりはなかなか難しいようです。

 一方、地質時代の環境変化の原因として、メタンハイドレートの大規模な融解を原因と考える説もあります。特に、新生代初期 (古第三紀始新世の初め頃) の温暖化の原因として、ノルウェー海のメタンハイドレートが大規模に溶け出したためという説が提唱されています。新生代初期の気候については、「新生代」のページの「新生代初期の温暖化」もご覧下さい。

メタンハイドレートと大規模海底地すべり

 地質時代において、海水準変動が繰り返し起こってきたことはよく知られています。海水準が低下すると水圧による圧力が減少するため、メタンハイドレートの安定領域のうち深い部分が不安定化し、メタンハイドレートの自然分解が起こります。やがて、発生したメタンの圧力が限界まで高くなると、地層を割って一気に上昇・噴出してしまい、海底地すべりや斜面崩壊が生じるといわれています。これに伴い、大規模な津波が発生することも指摘されています。

 ノルウェー沖の大陸棚斜面で見つかっている世界最大規模の海底地すべり (ストレッガ地すべり) は、メタンハイドレートの融解が原因ではないかといわれています。一方で、メタンハイドレートの存在は確かではあるものの、地すべりに対するその役割は小さいとの研究報告もあります

「魔の海域」との関係

 メタンハイドレートが大量に溶け出すと、海底からメタンの泡が上昇します。海面に浮かぶ船はその泡によって浮力を失い、沈没してしまうことが指摘されています。これが、バーミューダ・トライアングルにおける船や航空機の遭難・失踪の原因ではないかという説があります。

 一方で、海底から上昇してくるメタンの泡は、むしろ船を押し上げるという説も出されています。また、バーミューダ海域にメタンハイドレートが存在しているらしいことは分かっていますが、それが大量に放出された痕跡は見つかっていません。今のところ、メタンハイドレートと「魔の海域」との因果関係を実証するまでには至っていないというところです。

メタンの起源

 メタンの起源は古くから研究が続けられていますが、今も議論のあるテーマです。一般的には、過去に生息していた生物を起源とするものと考えられています。一方、生物の関与していない非生物起源のメタンも、海嶺で噴出する熱水などから知られています。

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