日本海のできるまで

最終更新 2023.04.20

大陸の縁の異変

 新生代新第三紀の初め頃 (およそ2400万年前)、日本はまだ大陸の一部だったようです。この時代の地層に、日本海の存在を示すような海成堆積物の広範囲に及ぶ分布は見られず、一方で陸上で噴出した火山岩が各地に残っています。しかし、その後日本の各地で構造運動が起こります。大陸の縁でリフティングが始まったのです。

グラーベン・ハーフグラーベン

 およそ2000万年前頃にかけて、山形県や能登半島、島根県などで多数の正断層が形成されるようになります。その結果、断層に囲まれた盆地であるグラーベン (地溝といいます) や、変位の大きな断層が盆地の片側で活動を続けるハーフグラーベン (半地溝ともいいます) が形成され、礫や砂、火山噴出物がたまっていきます。


グラーベン・ハーフグラーベンのイメージ図。両側が落ち込んだのがグラーベン、片側だけ落ち込んでいるのがハーフグラーベンで、それぞれ地溝・半地溝とも呼ばれます。いずれも地殻が引き延ばされるときに形成される地形です。[画像クリックで拡大]

火成活動

 断層活動とともに、活発な火成活動も起こっています。日本各地の広い範囲に玄武岩や安山岩の火山岩が噴出し、厚くたまるとともに、地下にもドレライトなどの貫入岩として残されています。


ドレライトの産状の例。ドレライトは玄武岩質の貫入岩で、日本海側には各地に岩体が見られます。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク絵で見る地球科学「ドレライト」 外部リンク

 この時期の火山岩にはハイアロクラスタイトや枕状溶岩など、水中に噴出した証拠が多数見られます。すなわち、陸上の環境から水中の環境へと移り変わっていったことを示しています。また、火山岩類の多くが変質して一般に緑系統の色を呈するようになっているため、「グリーンタフ」と呼ばれることがあります。ただし、グリーンタフとは「緑色の凝灰岩」を意味しますが、実際には溶岩や貫入岩も多いので、この言葉はあまり使われなくなってきています。


グリーンタフと呼ばれることのある変質した火山岩類の例。この写真は、海底に噴出した玄武岩溶岩です。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク絵で見る地球科学「玄武岩火山角礫岩」 外部リンク

海進

 リフティングの進行とともに地殻は薄く引き延ばされ、高度も低くなります。そのようにして土地が沈降を続けると、ついには海抜0メートル、すなわち陸から海に環境が変わってしまいます。地質学や古地理学的には海の範囲が内陸側に進んでいくので、このような現象を「海進」と呼んでいます。海進が起きると、それまで陸地だったところ、すなわち浸食・運搬が卓越していた場所が、堆積の場に変わります。こうして日本の各地に不整合が形成されました。


埼玉県の秩父盆地に分布する海成層の基底礫岩。「前原の不整合」と呼ばれ、国の天然記念物になっています。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク絵で見る地球科学「不整合」 外部リンク

 海進は海水準の上昇によっても引き起こされますが、この時代の海進は海水準変動では説明がつかないほどとても規模が大きく、陸の標高がどんどん低くなっていったのが主な要因です。その証拠に、各地の不整合の上には海成層が厚く重なっており、また堆積する地層も海岸の砂から深い海の砂や泥に移り変わっていきます。すなわち、陸が海に沈んだ後、引き続き沈降を続けて堆積の期間が長く続いたこと、海の水深がどんどん深くなっていったことを示しています。水没した日本 (特に東日本) の状況については、別ページ「日本沈没時代」の方で紹介します。


埼玉県の秩父盆地にある「ようばけ」という有名な崖にも、日本海ができた頃 (約1550万年前) の海成層が厚く堆積しています。2016年7月撮影。[画像クリックで拡大]

熱帯海中気候事件

 できたての日本海は、ただの海ではありませんでした。2000万年~1800万年前頃、能登半島にはワニがいたことがわかっています。すなわち、とても暖かな海だったわけです。そして、そのピークは約1650万~1600万年前に起こります。例えば、現代の日本のシジミは1 cm少々の大きさですが、この時代の地層から見つかるシジミの化石は、大きさ10 cmに及ぶものもあります。これは、現在の熱帯地方のマングローブ湿地に生息するシジミと同類です。


富山県から産した約1600万年前のシジミ化石。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク産総研地質調査総合センターの公開する Linked Data 「GSJ F3847」 外部リンク

 同様の温暖化の証拠は植物化石にも認められます。それまで落葉広葉樹が主体であったのが、常緑広葉樹を多く含む構成に変わっているのです。また、実際にマングローブ植物の花粉化石が産出しています。つまり、この時代の日本海のほとりにはマングローブが茂り、その下には熱帯性の貝が生息していたのです。

 ただし、動物化石・植物化石とも、熱帯性の特徴を示す種は海生または沿岸生の種に限られています。したがって、およそ1600万年前に起きたこの著しい温暖化は「熱帯海中気候事件」と呼ばれています。

鉱床の形成

 この時代、東北日本の各地で金属鉱床、特に銅・鉛・亜鉛の鉱床が形成されています。鉱石は主に硫化物で、集合体となって産出するのが大きな特徴です。銅の鉱石は黄金色の金属光沢を示しますが、鉛・亜鉛の鉱石は黒いので、「黒鉱」と呼ばれています。東北日本の特に秋田県・山形県には、この黒鉱を採掘する鉱山が数多く存在していました。

 黒鉱の成因には様々な説がありました。現在、主に考えられているのは、熱水と呼ばれるマグマ起源の高温流体が海底に噴出するときに、溶かしていた金属鉱物を沈殿・堆積させてできるというものです。現在の海底でもそのような熱水活動が確認されており、煙突状に伸びた突起 (チムニー) から、黒色の熱水が勢いよく吹き出す様子 (ブラックスモーカー) が潜水艇によって撮影されています。


大西洋中央海嶺のブラックスモーカー[画像クリックで拡大]
出典:By P. Rona - NOAA Photo Library, Public Domain. 詳しくはこちらを参照 外部リンク

 黒鉱とは別に、鉱脈として産出する金属鉱床も形成されました。鉱石の種類は黒鉱とほぼ同じですが、岩石の割れ目に入り込んだ脈に産出するため、「鉱脈型鉱床」と呼ばれます。