白亜紀の火成岩類

最終更新 2024.05.01

前期白亜紀

 日本列島に分布する前期白亜紀の火成岩類の多くは深成岩類です。特に北上山地と阿武隈山地には広く見られますが、他の地域では北九州にややまとまって分布する以外はまれです。火山岩類は、主に深成岩に近接して分布するほか、山口県・兵庫県 (篠山地域) に分布しています。


前期白亜紀の火成岩類の分布。塗りつぶされた地域が分布域ですが、偏って存在していることが分かります。[画像クリックで拡大] 出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク1/20万日本シームレス地質図データベース ダウンロードシェープファイル 外部リンク地理院地図 白地図 外部リンク を利用してQGISで作成。

 阿武隈山地の前期白亜紀の火成岩類は、そのほとんどが深成岩類です。北上山地では深成岩類に加えて火山岩類も各地で見ることができますが、しばしば深成岩の熱による変成作用や変質作用を受けています。北上山地の花崗岩類の多くは近傍に金鉱床があることが知られており、古くから平泉の金色堂に代表される金の供給地となっていたと考えられています。


三陸海岸の北山崎で険しい崖をなす前期白亜紀の火山岩類 (原地山層)。[画像クリックで拡大]
出典:くろふね 「北山崎第一展望台からの北山崎 」 外部リンク ccbysa_s.png 外部リンク を本ページ用にトリミング

 西南日本には前期白亜紀の堆積盆は各地に見られますが、そこを埋める地層は堆積岩が主体です。火山岩は安山岩の溶岩や火砕岩がありますが、その量はそれほど多くありません。


兵庫県丹波篠山市の篠山川河床に見られる篠山層群の凝灰岩 (白色の地層)。泥岩や砂岩の地層に挟まれています。[画像クリックで拡大]
出典:野外地質学~Field Geology~のページ 外部リンク篠山地域の地質 外部リンク ccby_s.png 外部リンク

 堆積岩も浅海性のものが少しある以外は、陸上で堆積したものが主体です。特に、兵庫県から福岡県にかけて分布する前期白亜紀の地層は特徴的な赤い色の砂岩・泥岩を主体としており、堆積当時は温暖で乾燥した気候であったことが分かっています。前期白亜紀から後期白亜紀の初め頃までの陸成層からは、恐竜の化石が見つかっています。また、貝や魚、亀の化石なども発見されています。


兵庫県丹波市篠山川に見られる篠山層群の礫岩・砂岩・泥岩。この写真のように赤茶色を呈するのが特徴です。1991年頃に撮影したもので、その後に近くの地層から丹波竜の化石が発見され、一躍有名になりました。[画像クリックで拡大]
出典:野外地質学~Field Geology~のページ 外部リンク篠山地域の地質 外部リンク ccby_s.png 外部リンク

後期白亜紀

 後期白亜紀、それも8500万年前くらいになると、様子は一変してきます。大規模な噴火を起こす活発な火山活動が各地で見られるようになるのです。一方で、化石を伴うような堆積岩は、すっかり少なくなります。


後期白亜紀の火成岩類の分布。塗りつぶされた地域が分布域です。広い範囲にわたって分布しており、特に西南日本のかなりの地域を占めていることが分かります。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 外部リンク1/20万日本シームレス地質図データベース ダウンロードシェープファイル 外部リンク地理院地図 白地図 外部リンク を利用してQGISで作成。

 後期白亜紀はおよそ1億年前から6500万年前までの古い時代なので、その後の長い年月で削剥を受けています。このため、本来ならば地下深くに存在するはずの深成岩も広く地表に露出しています。西南日本で後期白亜紀火成岩類の分布の南限が明瞭に途切れているのは「中央構造線」という大断層があるためですが、その中央構造線付近に分布する後期白亜紀火成岩類は、ほとんどが深成岩類です。


岐阜県鬼岩公園に見られる一枚岩の花崗岩 (太郎岩)。一帯には花崗岩特有の風化地形が見られます。1991年5月撮影。[画像クリックで拡大]

 一方、削り残された火山の岩石 (火山岩) もたくさん見られます。これらを調べていくと、近くにある深成岩と火山岩は互いに同じマグマ活動によってできたものが多くあることが分かってきました。このようなものを「火山-深成複合岩体」と呼びます。

 削り残されているのには訳があります。その多くが溶結凝灰岩という硬い岩石なのです。これはカルデラを形成するような巨大噴火の名残と考えられ、厚く堆積した火砕物のガラスが、熱のために再溶融してできた岩石です。カルデラは侵食により地形としては残っていませんが、溶結凝灰岩が地質図上で円形や多角形の分布を示すことから過去にはカルデラであったことが推定され、このようなものはコールドロンと呼ばれます。近年の野外調査の進展と共に、日本各地で多くのコールドロンが判別されるようになってきました。火山-深成複合岩体およびコールドロンについては、地球科学の基礎知識にある「カルデラ噴火」のページをご覧下さい。


兵庫県丹波市に分布する流紋岩質で結晶の多い溶結凝灰岩の露頭写真です。顕著な板状節理が見られ、「丹波鉄平石」と呼ばれる石材にも利用されています。[画像クリックで拡大]
出典:野外地質学~Field Geology~のページ 外部リンク篠山地域の地質 外部リンク ccby_s.png 外部リンク


岐阜県に広く分布する濃飛流紋岩類という岩体から産する結晶の多い溶結凝灰岩の例。よく見ると右下に色の濃い部分が8 cm程度横方向に伸びています。これは、本質レンズと呼ばれ、火砕堆積物の熱と重みでつぶれた軽石と考えられています。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター地質標本館 外部リンク地質標本鑑賞会|流紋デイサイト溶結凝灰岩 外部リンク の写真を改変