最終更新 2016.12.03
活火山の直下にはマグマがあり、ある程度決まった間隔 (周期) で噴火を起こしていると推定されています。また、より長い時間、大きな広がりを視野に入れると、更に地殻の下部からマグマが定常的に供給されており、長い年月をかけて火山群を作り出してきたと見なせます。つまり、火山の地下には浅いところから深いところまで、いくばくかのマグマがあることになります。このマグマの存在が、地震と深い関係があると考えられています。
地震発生の原因として、ひとつには地下のマグマや熱水など (火山性流体とも呼ばれます) が移動するときに地震が起きると考えられています。低周波微小地震と呼ばれるタイプで、通常の地震よりゆっくりした揺れが特徴です。これらは火山体の直下の深さ20~35 km程度、すなわち地下でマグマが生成あるいは上昇してくると予想される付近に集中して見られます (高橋・宮村, 2009)。
東北南部から関東北部にかけてみられる低周波微小地震。全体的には活火山の位置とよく一致していることがわかります。震源の深さは15~40 kmの範囲にあります。[画像クリックで拡大]
出典:高橋・宮村 (2009) の第3図cを引用
栃木県内の火山では、低周波微小地震は那須および高原火山の地下で明瞭です。その震源は那須火山では30~35 kmの深さに集中しているのに対し、高原火山では15~40 kmに長く伸びており、15~20 kmと25~30 kmにやや集中しています (地震本部の「関谷断層の長期評価」の図9-3を参照 )。日光火山群では火山の直下からは南側にずれた位置に分布します。
なぜ通常とは違う低周波の地震が発生するのかは、まだ明確にはわかっていません。マグマや熱水などに富んでいる火山の地下では相対的に地殻の流動性が高く、岩石の破壊様式も変わるためと推察されています。
栃木県の活火山のうち、日光火山群の周辺 (特に足尾地域付近) では、低周波地震以外にも地震が頻発することが知られています。特に小規模な (マグニチュード 4 未満) 地震が群発する特徴があり、この観測のために国や大学の地震計が設置されています。
日光地域で定常的に発生している地震の例。地理的には皇海山付近と内ノ籠断層周辺、深さでは5 km程度に集中しています。また、火山 (赤三角印) である男体山 (中央) や日光白根山 (中央左)、燧ヶ岳 (左上) の付近では地震がたいへん少ないことがわかります。一番下の棒グラフは、2002年から2010年の地震の発生頻度を表しています。[画像クリックで拡大]
出典:東京大学地震研究所 (2012) 地震予知連絡会会報第87巻の第2図を引用
地震の頻発する理由は以下のように考えられます。地下に存在するマグマは、地殻に存在する物質としては強度が弱いと言えます。また、高温のマグマは隣接する岩石を軟らかくする効果もあります。つまり、マグマや近傍の岩石は、外部から力を受けたときに変形しやすく、歪みをため込まない傾向があります。しかし、マグマからやや離れた場所には通常の岩石があるわけで、マグマやその近傍に抵抗力がない分、通常の岩石にはむしろ余計に多くの力がかかり、歪みが集中してしまいます。結果として強度の限界を超えやすくなり、火山の周辺では地震が発生しやすくなるわけです (長谷川ほか, 2004)。
より広域に見てみると、関谷断層は那須火山と高原火山の間にあるようにも解釈できます。また、1949年の今市地震は被害状況や余震域から類推すると日光火山からやや離れた場所を震源域として起きたように見えます。すなわち、火山の近くでは比較的小さな地震が多いのに対し、少し離れた地域ではそれより大きな地震が発生する可能性があります。
栃木県北部の第四紀火山と活断層および震央位置の関係。赤丸は被害地震の震央、紫色は今市地震 (1949年) の余震域。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 、1/20万日本シームレス地質図ベクトルデータ と国土地理院 白地図 を利用して作成。 内ノ籠断層と今市地震の震央の位置は 地震本部の「栃木県の地震活動の特徴」のページ 、余震域は 伊東ほか (1994) の第一図 を参照しています (震央位置は論文・報告によってやや違っていますので新しいものを参照しました)。
同様の可能性は他の地域でも既に報告されています。現在の日本列島は圧縮応力場ですが、相対的に「軟らかい」火山地域が隆起して非火山地域との間に逆断層が形成されると解釈されています (長谷川ほか, 2004)。また、隆起する地殻の表面は局所的に引張応力場となるため、正断層やカルデラができやすくなります (お餅やパンの表面が膨らんで亀裂ができたり、ガスが抜けてくぼむようなイメージですね)。
圧縮応力場における活火山地域の変形のイメージ図。マグマが定常的に供給されている活火山周辺地域では、相対的に地殻が熱く軟らかいため、大きな歪みをため込みにくいと考えられます。[画像クリックで拡大]
2013年2月25日には微小地震の空白域に当たる日光市栗山地域を震源に、マグニチュード6.2、深さ10 kmの地震があり、日光市で最大震度5強を観測しています。
2013年2月25日に奥日光地域で発生したマグニチュード6.2、深さ10 kmの地震による地震動 (最大地動速度を計算により表した図)。固い地盤が卓越するため普段はあまり揺れない山岳地域が、強い揺れに見舞われたことが分かります。真冬の地震でしたので、斜面崩壊のほかに雪崩による交通被害もありました。[画像クリックで拡大]
出典:産総研地質調査総合センター 、地震動マップ即時推定システム (QuakeMap) のGeoTIFFと国土数値情報 行政区域データ 、および気象庁の活火山分布 (KML) を利用してQGISで作成。
火山の災害は、実は噴火だけではありません。地震に伴う斜面崩壊が、大きな災害を引き起こすことがあります。1984年の長野県西部地震では、御嶽山で岩屑なだれが発生し、流下した地域に被害をもたらしました (「御岳崩れ」)。国内で史上最大の火山災害である1792年の雲仙・眉山の崩壊も、地震がきっかけと言われています (「島原大変肥後迷惑」)。火山の地質は、軽石層などのもろい地層もあれば、溶岩のように堅固で重いものもあります。山体の斜面も急傾斜であることが多いので、それだけ不安定な場所がたくさんあることになるのです。