小貝川と桜川の分水界の地形・地質

2023.1.8 公開


山と谷で大きく違う分水界

 多くの場合、県境は分水界と一致しています。しかし、あるとき県南境界である雨巻山西方の栃木県・茨城県の県境は、必ずしも分水界とは重なっていないことに気がつきました。この地域では南北方向に延びる長い谷がありますが、地形をよく見てみると山の頂上の位置に対して谷の分水界がずっと北側に位置していることがわかります。つまり、県境地域では、谷の傾斜は南傾斜なのに山の稜線は北傾斜という区間がかなりあるのです。

小貝川水系と桜川水系の分水界を示した地形図。黄色の太線が分水界を示しますが、山の頂上の位置に対して、桜川の支流である泉川と大川の谷が北に深く入り込んでいるのがわかります。地理院地図 陰影起伏図 外部リンク傾斜量図 外部リンク淡色地図 外部リンク を利用して作成。3D地形図はこちら 外部リンク

 東西に連なる山地のピークが南寄りにあり、北側に緩い斜面が続くこと、北側から長い谷が山のピークまで延びていることは、この山地では南側が隆起傾向にあることを想起させます。しかし、その中で2本の谷が山地を分断しており、そこだけ分水界が飛び抜けて北に位置しています。

分水界の遷移の原因

 このような地形を呈するようになった原因として、いくつかの可能性が考えられます。まず、谷地形を生じる原因としてよくあるのは、断層や褶曲などの特別な地質構造が存在する場合です。この付近の既存の地質図を見ると、褶曲構造は特になく、ちょうど谷の箇所に断層があるように描かれた地質図もありません。ただ、谷とは別の場所には南北方向の断層が描かれている例はあるので、実は谷の箇所にも断層が伏在している可能性はあります。しかし、地質は栃木県側と茨城県側あるいは山の頂部と谷部で大きな違いがあるわけではなく、地質を理由とするだけではいびつな分水界ができたことを説明するのは難しいと言えます。

 谷地形を形成する大きな要因は河川の浸食力です。山地を分断するような河川の場合は、水量が多かったり、勾配が急だったりして、浸食する力が大きいことが示唆されます。

 この地域の河川は、栃木県側が小貝川水系、茨城県側が桜川水系からなり、谷にはそれぞれの支流が流れています。河床勾配を確認するために、それぞれの地形断面を図にしましたので見てみましょう。この図からわかるように、河床勾配は茨城県側の桜川支流の方がかなり大きくなっています。つまり、同じ峠から流れ始めたとしても、茨城県側の桜川支流の方が水が勢いよく流れ、浸食する力も大きくなっていると考えられます。

小貝川水系と桜川水系の分水界を挟んだ地形断面の比較。濃い青線が小貝川支流、水色線が桜川支流で、ルートは上の図の線と一致。グラフの最大幅が約10 km。基盤地図情報 数値標高モデル 外部リンク を利用してQGISで作成。

 もちろん、河床は削られるばかりとは限らず、谷が深くなって周辺流域からの土砂が流れ込みやすくなればむしろ埋まってしまうこともあり得ます。ただし、分水界から5 kmほどの範囲における標高の変化を見ても、小貝川水系に比べると桜川水系では15~20 mほど余計に低下していますので、仮に谷が土砂で埋まったとしても桜川水系の方が運び去られやすく、浸食力を回復するのが早いと言えます。現に谷の分水界が山の分水界よりもはるかに北に延びているわけですから、ここしばらくは桜川の浸食力が平均して大きかったことを意味しています。

将来の河川流路の変化

 こうして見ると、谷の分水界は現在の位置でちょうど釣り合っていると言うわけではなく、今後も北へ移っていくものと予想されます。現在、根本山の麓において小貝川の河床標高は約60 mです。一番低い分水界の標高は約80 mですので、その差は20 mほどです。地形断面を見てもわかるとおり分水界近辺は一番傾斜の急な箇所ですので堆積の場とはなりにくく、川が流れる限りはいずれ削られていく場所に相当します。この傾向が今後も続くとすると、小貝川はいずれ遠い将来には桜川に流れ込むことになる可能性が高そうですね。

未来の桜川水系の流路の想像図。桜川支流の浸食する谷が北に延びて来た結果、小貝川の上流部が根本山の麓で桜川水系に流れ込むようになると予想されます (その頃には県境の谷ももっと広がっているでしょう)。地理院地図 陰影起伏図 外部リンク川だけ地図 外部リンク を利用して加工・作成。

参考文献

CC-BY