世界の地質-岩塩ドーム

最終更新 2023.04.20

岩塩とは

 海水は塩分を含んでいます。海が干上がると、海水に溶けていた成分が残されて蒸発岩という岩石をつくります。岩塩は蒸発岩の主要な構成岩石です。地質時代を通じて、蒸発岩はたびたびつくられており、地層として世界各地に残されています。日本のような島国では、塩は海水から生産されますが、大陸では岩塩が重要な食用原材料となっています。このため、岩塩は古くから岩塩鉱山で採掘されてきました。


「ヒマラヤ岩塩」として販売されていた岩塩。産地の記載はありませんでしたが、パキスタンのソルトレンジあたりで採掘されたものと思われます。写真の幅は約10 cmに相当。[画像クリックで拡大]
2015年11月購入。

岩塩の性質

 一般に、岩石や地層は地下に埋もれると圧密をうけてより硬く緻密になりますし、熱により変成作用を受けることもあります。ところが、岩塩は常温・常圧で結晶化した時点でとても安定な (丈夫な) 結晶構造を持っており、圧縮されたり変成したりすることがないのです。したがって、地下深くなるほど周りの岩石は硬く、重くなるのに対し、軽いままの性質を保っている岩塩は相対的に浮力を得ることになります。また、岩塩は可塑性 (変形しやすい性質) が強いため、埋没するほど不安定になります。そして、ついには地下で流動を始めるのです。

岩塩ドームの形成

 地下では周りの岩石や地層よりも軽い岩塩は、上昇を始めます。そのメカニズムはマグマと同じで、このような構造をダイアピルと呼びます。周りの岩石や地層よりも軽い限り浮力は維持され、最終的には地表に達することもあります。このときに地表を持ち上げてできた構造を岩塩ドームといいます。世界には多数の岩塩ドームがあり、地表を突き破って流れ出した岩塩氷河も知られています。


ISSから撮影された、イラン南東部のザグロス山脈にみられる岩塩ドームの写真。[画像クリックで拡大]
出典:NASA Earth Observatory (Public Domain), 詳しくはこちらを参照 外部リンク

 日本には岩塩は産出しませんが、世界では珍しい石ではありません。そして、食用のほかにももうひとつ重要な役目があるために、岩塩や岩塩ドームは世界ではよく研究されてきました。それは、岩塩ドームがしばしば油田を形成するためです。


米国メキシコ湾岸油田の地質断面図における岩塩ドームの例。地下の岩塩層 (紫色の層) から5000 m以上にわたって岩塩ドームが上昇していることがわかります。[画像クリックで拡大]
出典:Scientific Investigations Report 2012-5159 (USGS Public Domain), 詳しくはこちらを参照 外部リンク

 石油やガスは岩石や地層の中では軽く、流動性が高いので、地下にとどまることは容易ではなく、ふつうは逸散してしまいます。石油やガスを地下に閉じ込めておくためには、浸透性の低い地層が褶曲していたり、緻密な岩石に覆われていたり、何らかの構造が必要になります。岩塩ドームはそのひとつなのです。


岩塩ドームによって形成された石油・天然ガス田の模式図。地下で生成した石油やガスは軽いので地中を上昇していきますが、浸透性の悪い地層があるとその下に留まります。また、褶曲やドームなどの構造があると、そこに濃集することになります。[画像クリックで拡大]
出典:Salt dome trap - By MagentaGreen - Own work, CC BY-SA 3.0 外部リンク, 詳しくはこちらを参照 外部リンク
本ページ用に日本語に翻訳。

 現在では高解像度の衛星写真や航空写真が容易に利用できるようになったため、岩塩ドームのつくる独特の地形を目にする機会も増えました。下に示すような各機関のウェブサイトでもしばしば紹介されています。